リニューアルの道のり


2012年12月7日。第三期工事途中の本館・玄関前にて。

第1期工事……2012年9月12日〜10月5日
第2期工事……2012年11月5日〜11月30日
第3期工事……2012年12月10日〜12月28日
第4期工事……2013年4月1日〜

理想の「自然と親しむ宿」を目指して。
挑戦の記録。

2012年5月14日。それは突然の電話から始まりました。
「大沢山温泉の宿が一軒廃業するのだけれど、自遊人でどうだろう」

回答期限は5月末。前オーナーの廃業意思は堅く、5月末ですべてのインフラをストップすると言います。旅館は一度閉鎖すると、設備的にも、法律的にも、再開業が極めて難しい産業。調査をしている間もなく、私たちは選択を迫られました。そして答えてしまったのです。
「やります!」

よく「自分たちで宿を経営したらもっとうまくやれると思ったんでしょ?」と聞かれるのですが、けっしてそんなわけではありません。私たちがやりたいのは、宿を「メディア化」すること。雑誌で疑似体験してもらうより、実際にくつろいで、食べて、寝てもらうほうが「伝えられることが大きい」と考えているのです。

営業譲渡から190日。地元精鋭の職人軍団だけでなく、遠く、愛知・三河から「愛知の名工」の100人に選ばれている大工の棟梁や建具職人をはじめ、石材、左官、塗装などの職人さんが何十人も応援に来てくれています。

厳冬期は雪のため工事もお休みですが、夏のグランドオープンを目指して春から工事も再開。夏までの間も限定営業しますので、ぜひ皆さま、工事中の宿を見に来てください。(岩佐十良)

ダイニング「早苗饗 −SANABURI−」

BEFORE

AFTER

総欅(けやき)、総漆(うるし)塗りという、この地でも豪奢な元庄屋の建物。隣町から20数年前に移築したもので、建築当初から数えると築150年、今では到底手に入らない、太い欅の梁と柱が縦横に組まれています。
が、しかし。移築では豪奢な建物の再現にお金が投じられたため、なんと一切の空調設備(暖房も!)がありませんでした。
第二期工事はそんな本館を「快適に」することがいちばんの課題。まずは壁の漆喰を塗り直し、建具を入れ替えて……、レストラン「早苗饗-SANABURI-」としてリニューアルしました。さらに12月に入ってから断熱工事と空調工事を実施。天井高10m以上、隙間だらけの古民家を"高断熱化"するという壮大な実験を敢行しました。
建具もすべて職人の自信作で、幅90センチの杉の一枚板を使用した板戸をはじめ、市松模様の襖、千本格子戸などなど。左官職人の腕も見もので、壁はすべて漆喰、床の間の壁はクチナシを煮出して色を出しています。

BEFORE
AFTER

玄関・ロビー

BEFORE

AFTER

縦横に走る太い梁と柱。第三期工事ではそんなロビーと玄関の改修が進行中です。一部は降雪のため来春まで"工事現場のまま"ですが、サッシの入れ替え、壁・天井・床の断熱工事などは終了。同時に内装もすべて手を入れました。
新たに使用している材も20年以上前に伐採され、自然乾燥している欅(けやき)が中心。欅は柱や梁に使われ、エイジング塗装で古民家調に仕上げています。そのほか無節の檜(ひのき)、30センチもの幅がある厚い杉板を床板に使用するなど、古民家と調和するように細心の注意を払っています。

BEFORE
AFTER

ラウンジ

BEFORE

AFTER

雪深い冬にも大屋根を支えてきた天井の梁は、この施設の魅力のひとつでもありますが、暖房効率が悪く冬は寒くて長時間滞在していられないのが悩みの種でした。
この大きな問題をクリアし、客室以外にもくつろげる空間を、とできあがったのがラウンジ「ほぞ -hozo-」です。
床には、ロビーと同じ30センチもの幅がある厚い杉板を使用し、階段や手すりもすべて木材を使用した暖かみのある空間。けやきの一枚板のカウンターには、チェックインからチェックアウトまでいつでも無料で利用できるエスプレッソマシンも備え付けてあります。
世界の名作チェアに腰掛けたり、手織りのギャッベに足を伸ばしながら、堅牢な古民家の梁や柱を間近に眺めて、ゆったりとくつろいでください。

BEFORE
AFTER

客室

BEFORE

「本館は立派だけど客室はパッとしないわね」というご意見が多かった宿泊棟。どうやら開業時、本館にお金をかけすぎて、宿泊棟には予算がまわらなかったようです。さらに宿泊棟を工事したのが手抜きで有名な業者(すでに廃業)。壁を、床を、天井をはがせば、必ず手抜き工事が見つかります。ということで、宿泊棟は補強&防音のために工事がスタートしました。全14室のうち、まずは6室をリニューアル。本館のように「総欅」とはいきませんが、できるだけ無垢の木をはじめ、天然素材を使った空間にしたいと考えています。
ただし。2012年中に3室の完成を予定していましたが、次々と問題が発覚したため、完成は雪解け後の5月にずれこみそう。4月からは残り8室もリニューアルするため、新たな客室に泊まっていただけるのは2013年夏のグランドオープン以降になりそうです。

BEFORE

雨読スペース

実はいちばん核になる施設。家具&生活雑貨の店もオープン予定。

「晴耕雨読」が施設のコンセプトですから、連泊のお客様が"雨読"できるような空間を施設内に新設予定。宿泊棟には図書室と書斎(シティホテルのビジネスセンターのようなもの)を2013年夏までにつくろうと考えています。デザイナー、プログラマー、編集者、作家、アーティスト……仕事場を自由に動かせる人々が快適に過ごせるような空間を目指します(もちろん自遊人のスタッフも利用させてもらいます)。
さらに。現在、本館の前は無粋な駐車場なのですが、春以降、アスファルトをはがして庭に変える予定。イージーチェアとハンモック、ウッドデッキのあるカフェを新設しようと考えています。そして庭を挟んだ向かいの日帰り温泉棟は、自遊人の提案するライフスタイルショップに。食品だけでなく、家具&生活雑貨のショップになる予定です。

温泉棟

2013年春以降に温泉棟を移設予定。源泉かけ流し化もそのときに。

皆さまからいただく「一刻も早く源泉かけ流しに」というリクエスト。私たちもすぐに変えたいのですが……そうは簡単ではありません。湯量が毎分14リットルと少なく、源泉温度が27度しかないため、かけ流しにするにはかなりの加熱が必要になるだけでなく、設備の新設も必須なのです。
ところが。温泉棟周辺は雪害がひどく、その根本的解決のために温泉棟の移設を検討中。移設前に設備を更新するわけにもいかないため、実はけっこうハードルが高いのです。移設工事は当初、2013年秋以降を予定していましたが、現在、春着工に前倒しできないか、調整を進めています。
なお、露天風呂は従来どおり冬季休業。なんとか稼働できないか検証しましたが、雪が多すぎて現在の熱交換機では温度が上がらないことが判明。来年度は雪見風呂を楽しんでいただけるよう頑張ります。

農園

農業体験は「軽〜い感じ」が基本。もちろん参加しなくてもOKです。

この宿があるのは、魚沼産コシヒカリの産地のなかでも「もっとも美味しいお米がとれる」と言われる大沢地域。「魚沼産のなかでも南魚沼産」、「南魚沼産のなかでも塩沢産」、「塩沢産のなかでも大沢、樺野沢、君沢がダントツ」と地元で言われているのですが、その大沢源流部に位置しています。
そんな土地なので、自遊人ファームの田んぼをココにもってくるのは難しいのですが(農家の跡取りが多すぎるほどの地域なのです。そんな場所は日本でもココだけ)、田植え体験や収穫体験、雑草取りなどは近くの農家の方々が体験させてくれます。また、来年からは「早苗饗」で使う野菜を周囲の畑で有機栽培する予定。「朝ごはんのきゅうりを自分で収穫しませんか?」なんて、農作業アトラクションを始めたいと思っています。