さとやまからはじまる十の物語4.「農」
生産の現場から食卓まで。
農業って何だろう?
私たちの会社、株式会社自遊人が東京・日本橋から新潟・南魚沼に移転してから、20年近くが過ぎました。2004年6月、縁もゆかりもない新潟に移転した理由は「米を勉強したいから」。当初は2〜3年のつもりでしたが、さまざまな農法を学ぶにはまったく時間が足りないことに気がつき、1年、1年と延びていきました。
そして2010年には農業生産法人、自遊人ファームを設立。米づくりのことに関しては拙著『実録!「米作」農業入門』(講談社)に書いているので、ご興味のある方はお読みいただきたいのですが、私たちが新潟にいる意味において「農業」が大きなポジションを占めていることは、今も変わりありません。
ここ数年、農業の話題が全国的に増えています。耕作放棄地、跡取り、環境保全、TPP……。けっして明るい話ではありませんが、農業従事者以外の都市生活者が「農業」を考えることはいい傾向だと思います。
ただしこれらは、テレビのニュースや週刊誌の情報だけを鵜呑みにすると問題の本質を見誤ります。よく「農協が悪い」「生産者は甘やかされている」「後継者が足りない」などのご意見を聞きますが、正直、ちょっと異なると思うのです。
今、農業でいちばん重要なのは「主食の米をどうするか」なわけですが、そもそも米の消費量が落ち続けているのです。当然ながらもっとも重要なのは消費量を増やすことにあります。
私たちが今、農業問題においていちばん重要だと思っているのは「お米の美味しさ」を知ってもらうこと。そして美味しいお米を生産すること。
ご存じのとおり、新潟は米の生産量日本一。そして魚沼は日本一のブランド米を産出します。増え続けるパンやパスタなどの輸入小麦粉食から、少しでもごはん食に戻すためには、「美味しさ」で勝負しなければどう考えても太刀打ちできません。「米粉」や「多収量米」が話題ですが、最終的にそれで輸入小麦粉や輸入米に勝てるとは思えません。
農業問題というと難しく考えてしまいますが、私たちが重要視しているのは皆さんに美味しいお米を食べていただくこと。そして食べた方が「一般的なお米と何が違うのか?」「どうやったらおいしいお米を量産できるのか」を少しでも考えてくれれば、解決の糸口は見つかるはずです。
もちろん。私たちは毎年、農作業体験プログラムを積極的に行っています。一般参加のプログラムはもちろん、NPO法人「KIDS SAVER」や「FUUDO」など、さまざま団体の体験プログラムをサポートしています。
でも。もっとも重要なことは「おいしいお米を食べてもらうこと」。これは里山十帖の存在意義でもあります。
クリエイティブディレクター 岩佐十良