田植えが終わったあと、その年の豊作を祈るのと同時に、 田植えに協力してくれた人々をもてなす饗応のことを、「早苗饗 /さなぶり」と言います。
その昔は当然だった自然と共存する暮らし。 人は水、空気、食べ物がなくては生きられません。 風土と文化に寄り添いながら、自然の恵みに手を合わせていただく。そんな料理の基本に忠実に、人間が持つ「野生」が目覚める料理を作りたいと思っています。
フードロスやフードマイレージの低減は、 自然と共に暮らす私たちにとって当然のこと。 里山十帖の食事で「何か」を感じていただけたら、この上ない幸せです。
里山十帖の「料理十条」
一、料理を通じて、体験、発見、感動を提供する。
二、二十四節気、七十二候。日本の暦に逆らわない料理を作る。
三、新潟の風土、文化、歴史を学び、料理に表現する。
四、古来伝承の発酵・保存技術を学び、活かし、料理に取り入れる。
五、食材はできるだけ近くから。食材に旅をさせない。
六、山菜、伝統野菜、有機栽培の野菜など、生命力の強い食材を使う。
七、動物を無用に苦しめず、命に感謝していただく。
八、野菜は皮や根、茎まで、魚や肉は骨まで、余すところなく使い切る。
九、無添加、天然醸造の調味料を使い、化学調味料は一切使用しない。
十、美味しいこと、美しいこと、健康で幸せに生きる料理であること。
シェフ 桑木野 恵子
「使っている食材はすべて有機JAS認証を得ているものですか?」。こんなご質問をよくいただきます。答えは「いいえ」。私たちが目指している料理は、"認証を並べる料理"でもなければ、"認証を得るための料理"でもありません。目指しているのは、力のある食材を感じていただくこと。そして生産者の想いを食材から感じていただくこと。必然的に「オーガニック」という理念をもって生産に取り組んでいる食品が多くなります。それは"認証"や"規格"ではなく、細かな生産方法の違いでもありません。私たちが大切にしているのは"想い"。ですから、無農薬だけでなく減農薬の野菜を使うこともありますし、さまざまな農法に優劣をつけるつもりもありません。
とかく人間というものは、ひとつの物事にのめり込むと、排他的になりがちです。消費者が「有機JAS認証を得ていなければ、オーガニックとは言えない」と言えば、生産者は「あの農法はオーガニックの理念からはずれている」と言ったりします。ともに目指しているのは、安全で美味しい食品のはずなのに……。私たちは特定の政党や宗教とは一切関係ありません。雑誌を長くつくっていた私たちにとって、「中立・公平」はいちばん重要なこと。だからこそ、「オーガニックな想い」を、つねに中立的な立場で伝えていけると考えています。
九州の黒川温泉や由布院温泉の魅力のひとつが古民家を上手に使った演出。そのほとんどが実は新潟から移築されていることをご存じでしょうか。太い梁と柱は雪の重みに耐えるためのもの。実は新潟の豪雪地ならではの建造物です。早苗饗のメインダイニングは築150年、この地でもひときわ大きく立派な古民家をリノベーションしています。抱えられないほどの太い柱や梁。「これでもか!」というほどに組まれた重厚な小屋組。しかも目に見える部分は総欅、総漆塗り。京都の数寄者がつくった建築が瀟洒であるのに対して、新潟の匠がつくった民家は「豪奢」という言葉がぴったりです。
降っている時はさらさらでも、積もり積もって圧縮された雪は氷の塊そのもの。それが3メートルを優に超すのです。もちろん雪下ろしは何度もするのですが、家がつぶれないためには、これだけの太さが必要だったということ。夏はすっぽり雪に覆われた姿を想像しながら、冬は地形すらわからなくなる豪雪に圧倒されながら、どっしりとした古民家の迫力をお楽しみください。もちろん、現代ではつくる大工がいないだけでなく、これだけ太い材料を入手することは困難です。
魚沼という地は、雪に閉ざされた僻地のような印象を持つかもしれませんが、実は江戸時代から大変豊かな土地だったようです。北前船の寄港地としては最大規模だった新潟港には、日本一の大河、信濃川が注ぎます。川を上る小舟には九州・唐津からの伊万里焼きが大量に載せられ、下る小舟には越後上布や小千谷縮などが積まれていました。そのため、「旦那衆」と呼ばれた事業で財をなした人々の蔵からは、北前船で運ばれた骨董品が多数出てきます。婚礼や家の建前など祝い事だけに使われた、木箱で大切に保管されていた器。早苗饗では、この建物が建てられたのとちょうど同時期、幕末から明治期の錦手、 伊万里の印判といった骨董を使用しています。古い蔵で眠っていた、初めて市場に出る骨董品を"うぶだし"と言いますが、うぶだし専門の業者(骨董品店が仕入れる問屋さんのような存在)は言います。「最近、明治のものもめっきり出なくなってきた」。早苗饗では現代作家さんの器も多数使っていますが、古いものと新しいものの競演を存分にお楽しみください。
アレルギーに関してはできるかぎり対応しておりますが、完全に外しきれない可能性があります。重篤な症状が出る方への対応はできませんのでご了承ください。