果たして料理人はなんのために料理をつくるのか?
美味しさとはなんなのか?
そんな根源的な問いをテーマにしたレストラン『primitif』。
『primitif』とは「原始的」「根源的」を表すフランス語です。
目指す料理は「文明と原始の融合」。
魚沼・奥只見の食文化として存在するものだけを
原始的な方法で、ときに最先端の調理方法で料理します。
山奥ですが“山奥っぽい料理”は提供しません。
尾瀬十帖のメイン食材は山菜、野菜、棒鱈、身欠ニシン、豚肉、ジビエ。故・開高健氏がこの地で「奥只見の魚を育てる会」をつくり、「キャッチ・アンド・リリース」を推進したことに敬意を表し、奥只見湖のイワナやサクラマス、ワカサギは料理に提供しません。またジビエに関しても命の尊厳の観点からたくさんの量を提供しません。「熊鍋など山奥ならではの料理を食べたい」というご意見も頂戴するのですが、昨今、各地で提供されている熊料理、その「熊ブーム」とも言える状況は度を超しており、人間が生きるための猟ではなく、人気メニューを作るための猟が加速している状況です。開高氏が逗留した村杉小屋の二代目、佐藤洋一さんは言います。「このあたりでタンパク源といえば棒鱈と身欠ニシン。冬はウサギ狩りもしたし、熊狩りもしたけれど、生活の糧より多くはとらなかった。だからお客さんにも出さなかった。開高さんが逗留したのは夏だからジビエは食べていないはず。親父は里から豚肉や牛肉を買ってきて、週に一度くらい振る舞っていたよ」
麓の小出は養豚が盛んな街で、生ホルモンの店が多いことでも有名。そんなことから尾瀬十帖の肉料理は豚肉を中心にご提供しています。
そしてもう一つ、重要なのが「味付け」。山菜や野菜の繊細な苦味や酸味、旨みを感じ取っていただきたいので、化学調味料や食品添加物を一切使いません。発酵技術を使って旨みは引き出したり、自家製の発酵調味料で味付けしたりしていますが、塩分も少なめ、砂糖も基本的に使わないので、もしかすると「味が薄い」と感じるかもしれません。そんな時は「荒沢岳の湧水」をひとくち口に含んでから召し上がってみてください。ご自身の繊細な味覚が呼び起こされることでしょう。
ちなみにお酒は地元の銘酒「緑川」をはじめ新潟の日本酒を各種ご用意しています。緑川酒造はサントリーの元会長、佐治敬三氏と縁がある酒蔵。作家の開高健氏は元サントリーの社員であったことなど、新潟県魚沼市と銀山平、サントリーと緑川、開高氏と複数の繋がりがあったようです。そういう背景から『10 Stories Hotel OZE 尾瀬十帖』で提供するビールはサントリーのみ。ウイスキーもサントリーのみ。開高氏はウイスキー好きとしても有名でした。ぜひ夜は焚き火を眺めながらオンザロックのウイスキーをちびりちびり、お楽しみください。
「文明と原始の融合」を目指して
私は群馬県吾妻郡東村(現・東吾妻町)という小さな村で生まれ、育ちました。村には紅葉名所として知られる吾妻渓谷があり、ランドセルにはいつも釣り竿が入っていました。学校帰りにイワナやヤマメを釣るのですが自分で絞めることができず、庭の池に放していたことを思い出します。池に魚が溢れてくると、その魚を塩焼きにして祖母が食べさせてくれました。
夕食は祖母と祖父の畑で採れた野菜がメインで、米は裏の田んぼで収穫したもの。秋には家族総出で稲刈りをした記憶があります。高校時代にはその田舎すぎる生活が嫌いになり都会に憧れたのですが、料理の世界に入ると少年時代の豊かな思い出が常に頭の片隅にあるようになりました。
25歳になったとき思い切って海外に出たのですが、自分が選んだのはパリのレストランではなく、南フランスのニースから車で1時間ほど山に入った一つ星レストラン。毎日、野菜やトリュフ、ときにマグロが一本届くのですが、シェフと生産者が深い絆で結ばれている光景は衝撃的で、同時に周囲の土地や海を守る重要性も学びました。
帰国後は東京のレストラン、そして「ローカル・ガストロノミー」を掲げる『10 Storeis Hotel』(株式会社自遊人)に入社。「松本十帖」を経て「尾瀬十帖」のシェフに就任したわけですが、今、強く思うのは、日本の山が本当に豊かだということ。多雨で高温多湿、しかも四季がある日本の山はフランス以上に豊かですし、国土の隅々にまで毛細血管のように川が流れ、流域を潤している国は世界でも稀ではないでしょうか。
少年時代に感じた山の豊かさ。それは塩焼きイワナの火傷しそうな温度感であり、茹でたてとうもろこしの甘さであり、水で冷やしたトマトにかぶりついたときに飛び散る果肉であり、焼けた籾殻から軍手で焼き芋を探し出す宝探し感であり…。
クリエイティブ・ディレクターの岩佐から与えられた料理テーマは「文明と原始の融合」。私はピンセットで盛り付けるような料理や色とりどりのソースで絵を描くような料理はあまり好みではなく、美味しいものを「ドン」と盛り付けたいタイプ。薪火や炭の良さも松本十帖で学びましたが、かといってオーセンティックなスタイルだけではなく、最先端の調理技術も取り入れたい派です。
少年時代の記憶、「原始」的な美味しさ。そして料理学校時代から20年で学んだ「文明」技術、さらにフランスで学んだ「料理文化」を融合させて、この尾瀬・奥只見という地を表現したいと考えています。
あえて「サスティナブル云々」を語るつもりはありません。山で育った私にとって「サスティナブル」はあたりまえ。ここ「尾瀬十帖」でもあたりまえのことです。山の暮らしがいかに自然体でサスティナブルであるか、身体で、五感で感じていただければ幸いです。
シェフ 青柳拓広
青柳拓広
群馬県吾妻郡東村(現・東吾妻町)出身。料理学校を卒業後、東京都内のフランス料理店を経て南フランス・プロバンスの一つ星レストラン『クロ・サン・ピエール』へ。帰国後は東京・白金高輪の『ラ・クープ・ドール』でスーシェフを務める。その後、全施設でローカルガストロノミーを掲げる「10 Stories Hotel」(株式会社自遊人)に興味を持ち入社、『松本十帖』に配属。松本十帖のレストラン『367』は「日本一の大河、信濃川・千曲川が育む豊かな食文化」をテーマにしており、そこで日本の山の豊かさ、川の偉大さにあらためて気づく。2024年春、『尾瀬十帖』のシェフに就任。
DINNER
primitif(1泊2食の標準コース)
『10 Stories Hotel』の全施設共通のテーマは「ローカル・ガストロノミー」。ローカル・ガストロノミーとは地域の風土・文化・歴史を料理に表現することを指しますが、尾瀬十帖ではさらに一歩踏み込んで「文明と原始の融合」を料理テーマにしています。「焼いて美味しいものは焼くだけ」「蒸すと美味しいものは蒸すだけ」等、原始的な調理方法でご提供するほか、最先端の調理方法も用いて、時間軸を超えた魚沼・奥只見の食ご提供します。なお料理のクオリティーを上げるために完全二部制。それ以外でのスタート時間は承ることができませんのでご了承ください。
16:30〜、19:00〜(二部制)
明るい時間からゆったり夕食を楽しめる16:30の回をおすすめしています。夕食後は焚き火を囲んで優雅な時間をお過ごしください(焚き火タイム18:30〜20:30)。
※予約状況により、ご希望の時間でお受けできないことがあります。
※小学校低学年以下のお子様にはキッズプレートをご用意しています。
セルフBBQコース(ヴィラスイート宿泊者限定)
ヴィラスイートにご宿泊の方限定のセルフBBQコース。16:00に各棟まで食材をお持ちします。なお周辺環境と生態系の維持のため、庭でのバーベキューは20時までに終了していただき、食べ残しが庭や周辺に落ちていないことをご確認ください(熊を含めた夜行性の動物が残飯を探しに来るようになると大変危険です)。
※荒天時には客室内でホットプレート等で調理していただくことになります。ご了承ください。
2泊目(連泊)以降限定
ショートコース
連泊の方には2日目以降、前菜数品、ピザ、メイン、デザートのショートコースをご用意します。3泊目以降も料理内容を変更してご提供します。連泊の方で料理のご希望がある方はシェフにご相談ください。できる限り対応させていただきます。
BREAKFAST
開高健氏が逗留した1970年、まだ銀山平には電気が通っていませんでした。そんな時代のこと。村杉小屋の佐藤進さんがある日、開高氏に出した“まかない”の山菜チャーハン。開高氏はこれをいたく気に入り、村杉小屋の名物になるように指導したといいます。その後、山菜チャーハンは銀山平だけでなく麓の湯之谷村(現・魚沼市)名物「開高めし」となり、現在に至ります。
『10 Stories Hotel OZE 尾瀬十帖』は村杉小屋の二代目、佐藤洋一さん、まゆみさん夫妻から譲り受けた施設ですが、まゆみさん曰く「魚沼産コシヒカリで山菜チャーハンを作っておにぎりにすると、モチモチでおこわみたいになるの。それを山で食べると美味しいのよ」。
そこで『10 Stories Hotel OZE 尾瀬十帖』ではまゆみさんの話をヒントに、そして「開高めし」へのオマージュとして「山菜ちまき」を朝食にご提供しています。現在、「開高めし」と名乗るには「山菜を3種以上、ゼンマイは必ず入れること」「必ず炒めること」「紅生姜を載せること」の3ヶ条があるので、尾瀬十帖のちまきは「開高めし」ではありませんが、開高氏が山を眺めながら食べた山菜チャーハンの味に思いを馳せ、朝食を楽しんでいただければ幸いです。なお翌日、早朝に出発される方(尾瀬に行く方、山に登る方、滝雲を見に行く方)には前日の夜、「山菜ちまき」をお渡しします。船上で、山の上でお楽しみください。
8:00、9:00、9:30で承っております。
Lunch(連泊者限定)
1,500円(1名・税別)
炊き立ての魚沼産コシヒカリと野菜のおかず、スープをご用意します。スープはお茶漬けにしてもお楽しみいただけます。連泊の方には尾瀬十帖のまかない、ジビエカレーや魚沼ナス丼、山菜中華丼などをお選びいただくこともできます。
みんなの悲劇をなくすために、ご一読いただければ幸いです。
ご宿泊を検討いただいている方にこれだけは読んでいただきたいのです。おそらく皆さんにとって旅先での食事は「超重要」であり、「宿泊施設の評価は料理にかかっている」という方も多いに違いありません。ただ食事には「好み」があり、万人が美味しいという料理は存在しません。もちろんマーケティング的側面から考えれば「美味しいという人が多い料理と食材」というのは存在するわけで、実際にそのような料理を提供するレストランや宿泊施設が世の中では多数派だったりします。
私たち「10 Stories Hotel」でご提供する料理は、まったく異なります。
各施設ごとにコンセプトがあり、テーマを設定しています。もちろんできる限り多くの方に「美味しい」とおっしゃっていただけるように努力しておりますが、どの施設でも年に数組、「まったく口に合わない」というお客様がいらっしゃいます。
これはお客様にとって悲劇なだけでなく、私たちにとっても残念なことです。そして、たった一人のクチコミがスタッフ全員の士気を落とすだけでなく、生産者の士気にまで影響します。場合によっては誰かを鬱へ引きずりこみます。投稿するご本人は「自分と同じ思いをしないように」という善意のつもりでも、命をかけて取り組んでいるスタッフや生産者にとっては、「なぜ伝わらなかったのだろう」という心の傷になります。
このミスマッチをできる限り避けたいと思っています。ぜひ下記をご一読いただき、「自分の味覚や好きな料理の方向性とは合わないかも」と感じた際には、ご宿泊を再検討いただければ幸いです。
- 全施設のテーマは地域の「風土・文化・歴史」を表現する「ローカルガストロノミー」です。
いわゆる旅館の料理とは異なります。尾瀬十帖のシェフはフランス料理出身ですが、フランス料理でもありません。尾瀬・奥只見の「風土・文化・歴史」を料理に表現できるように、日々取り組んでおります。
- 豪華食材は基本的に使用しません。
豪華な食材や希少な食材で料理を構成することはマーケティング上「有利」ではありますが、それは全施設で禁止しております。「美味しさ」に価格や希少性は関係ありません。豪華食材を追いかけることよりも美味しいものを作る生産者との関係性を重視し、その味を最大限引き出したいと考えています。
- 味付けは薄いかもしれません。
サスティナブルな食環境を実現するため、動物性の旨みより、植物性の旨みを重視しています。とくに野菜料理は野菜そのものの味を感じていただきたいので、塩分も最小限に抑えています。また全施設でキャリーオーバーも含めて化学調味料を一切使っていません。上白糖もできるだけ使用を控えています(里山十帖では全く使用していません)。
- 「映える」料理ではありません。
繊細に作り込まれたアミューズ、アート感あふれる盛り付けは、アーティスト性向の強いシェフの分野だと考えています。それを真似た料理も各所で作られていますが、真似は真似であり、尾瀬という地で料理する意味はありません。尾瀬十帖の料理はどちらかというと地味。コースには「焼いただけ」「蒸しただけ」といった料理も含まれます。
- 真面目に取り組んでいることだけはお約束します。
至らぬ点も多いと思います。「コンセプトは立派だけど料理が追いついていない」と思われるかもしれません。でも真面目に取り組んでいることだけはお約束します。今日より明日、今年より来年。よりよい食環境を実現するために。山深い奥只見と尾瀬の自然を感じていただくために。そしてお客様に認めていただけるように、スタッフ一同、取り組んでおります。
クリエイティブディレクター 岩佐十良
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