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さとやまからはじまる十の物語2.「住」

デザインの力で、
古い家を快適に“暮らす”空間へ。

里山十帖は5つの建物から成り立っていますが、正面に建つレセプション棟は築150年の古民家。豪雪に耐えるため、太い梁と柱が縦横に走ります。今では手に入らない貴重な総欅造りで、釘を使わず組み上げられています。

そんな文化財のような建物が次々に壊されています。その理由は「寒くて」「暗くて」「古くさい」から。人々は「暖かくて」「壁が白くて明るくて」「ソファやベッドの似合う」、サイディング&ビニールクロスの家に建て替えます。そして壊された家のほとんどは廃材として焼却されます。

「古民家を守ろう!」とスローガンを掲げるのは簡単です。しかし現実にそこで暮らす人々には届きません。なぜなら、雪国で暮らす人々にとって「寒い」のは絶対に嫌なのです。

九州の黒川温泉といえば、鄙びた田舎風景が人気の温泉地です。古民家の宿もたくさんありますが、そのほとんどが新潟から移築されていることをご存じでしょうか。黒川温泉だけに限らず、全国各地の太い柱と梁の古民家は、かなりの確率で新潟から移築されたものなのです(その地域が雪国でなければ)。

もちろん再利用されることはいいことです。問題なのは新潟では、”壊される一方”ということなのです。
いちばんの理由は、やはり「寒さ」と「雪対策」でしょう。あれだけ黒川温泉が流行っても、新潟に古民家をリノベーションした宿ができる気配はまったくありません。住宅として活かされているという話も聞きません。

里山十帖は天井、壁、床下に徹底的な断熱を施してあります。ヒントはドイツやフランス、北欧などの住宅。リノベーションの現場を視察して、いたって簡単な結論に至りました。

「古い家も断熱すれば快適に生まれ変わる」。

2014年冬。プレオープン中のこと。里山十帖を訪れた人の第一声で、出身地がわかりました。10メートルという巨大な吹き抜け空間に入った瞬間「あったかーい!」というのが地元の方や雪国で育った方です。(ちなみに雪国の古民家を知らない方は、単純に吹き抜け空間に「すごーい!」と声をあげます)
里山十帖にはスリッパがありません。基本は裸足。しかも床暖房ではありません。なのに暖かいのです。

雪国の古民家を知る方は巨大空間がなぜ暖まるのか、興味津々です。チェックイン直後から質問攻めにあうこともたびたび。その答えは「徹底的な断熱」と、古民家ではおそらく日本初導入の「エアサイクル」にあります。

エアサイクルについては、関連する業者すべてが「反対」でした。なぜなら「効果が出なくても責任が持てない」から。でも実際に巨大空間を暖めることができたのです。

それからもうひとつ。私たちは「古民家にはソファやベッドが似合う」ことを提案したかったのです。
構造計算も行わず棟梁の勘で建てられたのに、一本も無駄のない柱と梁。風土と一体化した機能性抜群の家。古民家は究極のデザイン住宅です。世界のデザイナーが悩み、試作を繰り返した渾身の作と、時に対峙し、調和するのは当然のことです。

造形的には奇抜なことはなにもしていません。むしろ「すべてが昔からそうであったかのように」リノベーションしています。とかくデザイナーや建築家は自分自身の作品性を強く出そうとしますが、古民家は150年前の棟梁の作品。リノベーションには現代の快適性を加えることがいちばん重要だと思っています。

ちなみに残りの4棟もすべてリノベーションされています。客室棟は築23年、こちらは安普請の「ボロ家」でした。誰もが「壊して建て直したほうが得」といいましたが、私はリノベーションを選びました。

その理由は「材に罪はないから」。安普請とはいっても木はまだまだ使えます。それを壊して燃してしまうのはもったいない……。そこで構造だけのスケルトンの状態にしてから、やはり徹底的な断熱を施しました。

クリエイティブディレクター 岩佐十良

さとやまからはじまる十の物語

3.「衣」 1.「食」

Satoyama journal

春夏秋冬。季節の物語をお届けします。
里山十帖の日々をほぼ毎日、更新。ぜひご覧ください。